「人的資本経営」の”目的”

【”人的資本経営”の目的】

私の会社は「零細人材育成企業」なのですが、昨今話題の「人的資本経営」コンソーシアムとは一線を画します。呼ばれてもコンソーシアムには参加することはありません(絶対呼ばれないけど笑)。

>人的資本経営コンソーシアム名簿

https://hcm-consortium.go.jp/member_list

まず、これは「人材版:伊藤レポート」(2020年)に端を発しています。

https://hcm-consortium.go.jp/#home

注意深く読んでいると、決して日本企業の人材育成そのものを良くしようという志ではなく、あくまでも「投資対象としての人的資本経営」という”投資家目線”であることがうかがえます。

(100年を超える経営における人材マネジメントの研究成果や知見が全然入っていません。)

「人材版」と名前がついているこの”伊藤レポート”ですが、遡れば2014年8月に出された「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書の通称がこの伊藤レポートです。

これはROEの目標設定を8%としたことで大手企業に大きな影響を及ぼしました。

https://glossary.mizuho-sc.com/faq/show/319?category_id=1・・・

2014年より(ちょうどアベノミクスの成長戦略が注目され始めた頃)に、大手企業はこぞって「自社株買い」を始めました。赤字でもないのに”早期退職制度”でミドルシニア層の退職を促したり、人件費を抑えて内部留保を生み出し、そのお金を自社株買いに回していました。一時は5兆円/年もの自社株買いの”引当金”が捻出されました。

人材投資はむしろ自社株買いの犠牲になったのです。

この自社株買いは、ROEの目標(8%)を設定したことで、利益が伸びない企業でも自己資本を減らすことで成績を良く見せかけ、外国からの投資を得ようとする行為です。日本の大手企業の多くは、経営者報酬に「株価連動型報酬」を取り入れたため、ROEの強化で株価を上げることが経営者と投資家の共通目的とされました。

 しかしこの自社株買いは、米国や日本の一部識者の間では問題視されていたことは記憶に新しいと思います。

2014年の伊藤レポートはそうした「株主資本主義」を強化し、もともと存在していた日本企業の人的資本に損害を与える一助となっていたわけです。
そしてここへきて、その”人材版”というのが今回の位置づけなのです。

 

これは、このレポートがいかに欺瞞に満ちたものであるか、というよりは、海外のESG投資の大きな潮流の一つ("G"ガバナンス)をテーマにした投資対象先選定のためのルールの説明と見ることができます。

その証拠に、最近は伊藤レポート3.0(サステナビリティ・トランスフォーメーション)も昨年8月にでており、元々の考えは”投資のための〇〇”でしかないという点が共通しています。すべては株主資本主義のためなのです。

(座長の伊藤氏自身、会計やファイナンシャル領域の専門家です)

 人的資本を”開示”させることは、投資家のマネーを呼び込み、また将来の経営陣を送り込むことも容易になります。

日本企業の経営において人的資本を強化するという名目で、実は人材育成自体ではなく、あくまでも株価を上げる、投資家目線、という「グローバリズム株主資本主義」の強化策ということが言えます。

そして同様のことが「サステナビリティ」「脱炭素」などのコンセプトにも潜んでいるでしょう。

(ちなみにこのコンソーシアムのメンバーである世界最大の運用会社ブラックロック社の代表はこうした企業への啓蒙と投資を活発に行っていることで有名です。https://www.blackrock.com/corporate/about-us/global-impact)
https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/about-us/ceo-letter/archives/2018

 私は日本の低賃金でも他者のために汗して働くビジネスパーソンのための人材育成屋でありたいと考えています。

”グローバリズム株主資本主義”ではなく、個人と企業が共に価値を共有する”志本主義”社会こそが望ましいと思っています。