複業が当たり前になる~「複役社会」を考える(最終回)

第十二回(最終回):まとめ②

 

 これまで、複業が当たり前になる「複役社会」について、述べてきました。

事実は小説より奇なり、と申しますが、おそらく現実はここで書かせていただいたものよりも、もっとドラスティックなものになるかもしれません。

 

 最終回は未来への提言として、「複役社会」への課題について、考えてみたいと思います。

 

●これからの課題①:「お金」の話

 

 「副業」というと良く、投資(金融、不動産)、やアフィリエイト、MLM、せどり、など本業の仕事以外で“お金を稼ぐ”という文脈にぶち当たります。私が運営している「複業 for Japan~パラレルキャリアな新しい社会を創ろう」というfacebookのサイトでも、時折こうした文脈のお誘いが出てきます。

 

 副業を単純に“お金稼ぎ”としてしまうのはあまり望ましくないと思っています。その理由は、副業を給与の補てんと社会的に見なされてしまうことにあります。

 

 日本人の所得水準は並行、見方によっては下がっているともいえます。

・賃金推移

 

 

給与所得が減少(微減)している中で、物価指数はほぼ平行(微増)です。これだけでなく実質GDPも増加(微増)しています。これは賃金の下方硬直性や終身雇用などもあり、お金が個人にまわっていないことが分かります。

「だからこそ副業で稼ぐ!」と言いたくなりますが、副業がその文脈が強くなると、賃金が下方してもいい、又は上昇させない機運が強化されてしまうリスクがあります。

 

また、今複業と同じ文脈で、フリーランスやギグワーク(単発的な仕事)を紹介する記事も多くあります。しかしながら、フリーランスは向き不向きがありますし、ギグワークに関しては非正規雇用よりも不安定な働き方と言わざるを得ず、こうした働き方にはきちんとした理解が必要だと思います。

 

「複役社会」が、経済格差を助長したり、新しい貧困を生み出したりすることがないよう、個人も企業も社会も、きちんとデザインしていく必要があると思っています。

 

 

●これからの課題②:プロとアマチュアの差がなくなる!?

 

 私自身もプロボノ(無償)でコンサルティングなどをしていたのですが、副業ワーカーが加わることで、特にフリーランスで提供されるサービス(士業やコンサルティング、デザイン等)の供給側が増えてきます。そして懸念されるのが、そうした副業ワーカーが安価に仕事を請け負ってしまうために価格破壊につながるという観点です。

 この課題は特にスキルシェア等のサービスですでに顕著になり始めており、新たな課題が生まれています。

 

 副業ワーカー側は、まだ自分のスキルに自信がないため、経験を積む意味で安価に仕事を受けるという部分もあったり、発注側もお金がまったくない、非営利、等の側面があります。

 

 これまでは、行政サービス(補助・助成事業を含む)が負担してきた部分を、こうした副業やプロボノで無償又は安価に受ける人が増えてくることは良い事だと思います。(お金の出どこが税金ですので。)

 ただし、きちんと営業して利益が出ている企業等がこうした副業ワーカーを活用することが主体になってくるリスクもあります。所謂、「プロフェッショナル」として活躍しているフリーランスは、やはりきちんと対価が取れるように、サービスを高度化・差別化していく必要があるとあらためて認識します。これはフリーランスにとっては、まだ市民権を得たといえない状況下での厳しい風潮ともいえると思います。

 

 

●これからの課題③:地方との関係性

 

 昨今、“関係人口”というキーワードで、地方創生と副業やプロボノなどを組み合わせる事例等が増えています。人口の、東京をはじめとする都市圏の集中が止まらない中で、政府としても自治体と協力しながら地方創生を進めていきたいという考えです。また、仕事などでやむを得ず都心にいる人材にとっても、故郷をはじめとする地方へ関係を持つことは好ましいと考える方も多いと思います。

今年に入り、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県に居住する方が、副業などで地方に行く場合の交通費を助成する制度を行うと発表がありました。

 

地方に副業などで行く方にとっては朗報ではありますが、一方ではこうしたことに補助金まで出すのはどうなのか?関係人口が果たして地方創生につながるのか?といった声がもあります。

 

これまで、日本には「一つの組織で働く」「二兎追うものは一兎も得ず」「専門家=専業」という意識が強くありました。私自身も何かのプロフェッショナルになるには、専門的に学ぶことが大切という考えがあります。

 

「複役社会」というのは、人口が減少した中で、またAI等のテクノロジーが進む中で、私たちがいま直面する一つの大きな潮目の変化ということができるのではないでしょうか?それは私たちのパラダイムを変革する大きなイノベーションということも出来ます。

 

 こうした時代こそ、大局的な視座を持って、この社会の到来を受け入れると同時に、課題を克服してより良い時代への変革につなげていければ良いと思います。

 

終わり

 

 ※それぞれのセクター(企業や組織など)については、従前の記事もご参考ください。