複業が当たり前になる~「複役社会」を考える 自治体編

第十回:複業時代に自治体はどう変わるのか? 

 

 今回は複業が当たり前になる「複役社会」において、地方や自治体について考えてみたいと思います。

 昨年来、自治体でも副業解禁の動きが高まってきています。

 

●公務員の副業

 

2018年6月の日経新聞で、「国家公務員の兼業 政府が容認へ 公益活動に限定」とありました。そして2019年3月には内閣官房内閣人事局より、「国家公務員の兼業について(概要)」が発表されました。法律の範囲内とはいえ兼業についての考えを正式に発表した大きな変革点だと思います。

 

また、これを前後に、地方自治体でも副業を許可したり、副業人材を受け入れるなどの取組も始まっています。2017年には兵庫県神戸市、奈良県生駒市などの自治体で複業を認める動きが出てきました。

また、自治体は同時に民間企業人材の受け入れもおこなっており、広島県福山市や長野市など広がりを見せています。

 

地方創生の文脈から、これからはお金だけではなく、人も地域課題の解決には必要です。

そこで東京の人材が地方に出向き、副業で働く働き方も注目されています。

2020年1月10日の日経では、「政府は2020年度に、東京圏に住みながら地方で兼業や副業をする人に交通費を支援する制度を始める。(中略)1人当たり年間50万円を上限に3年間で最大で150万円を支給する。交通費が往復で1万円を超える場合、国と地方自治体がその半分を兼業や副業先の企業に助成する。」と報道しています。

また、地方での副業をマッチングするサービスも増えています。

 

●公務員の副業

(内閣官房内閣人事局 発表資料より)

公務員の方の副業については、営利活動には参加しないということが前提となります。

公務員の副業が基本的に禁止されていた理由は、

・信用失墜行為の防止

・守秘義務

・職務専念義務

の三つです。特に最初の二つは営利企業への副業はなかなか認められないのではないかと思います。

 

 そんな公務員の方ですが、非営利活動は行うことができるようにガイドしています。

 

第八回:複業時代に企業はどう変わるのか? 非営利組織編 でも書きましたが、非営利組織の平均年収は公務員のそれの約半分と言われています。日本は米国と比較すると、NPO等が少なく、社会貢献活動は自治体が税金を使って行うものという考えが強いと思います。

しかし、自治体ではきめ細かい部分や、新たな課題などに気が付かない、など活動の限界もあります。そういう意味ではNPO等の非営利組織はその機動力を生かして活動しています。

 自治体にお勤めの方が、こうしたNPO等へ副業することで、新しい課題やこれまでできなかった支援活動に乗り出せることは、非営利活動においては朗報ではないでしょうか?

 民間からプロボノという形で非営利活動に関わることも徐々に増えてきていますから、自治体の方も複業やプロボノで社会課題に関わることは官民交流のよい機会になるかもしれません。

 

●「複役社会」と自治体

 

 このように、地方創生の文脈を絡めて、地域の自治体などに複業する流れが出てきています。これも基本的な流れは自然な形のように思えます。

 政府は地方創生といいながら、片側で新幹線などの大幅な投資を容認したりして、東京と地方のアクセスを整備した結果、より東京に人口が集中する結果となりました。私は本気で地方創生を願うなら、コンパクトシティ構想の方にテコ入れをして、域内の交通網の整備をした方が地方には良かったのではないかと思っています。

いずれにせよ、東京や都市部への集中が進む中、今後は「関係人口を増やす」という方向で、Iターン、Uターンではなくて、副業で地方に関わるという形にシフトし始めています。自治体のみならず、人不足が深刻な地方の中小企業などにも支援するサービスなどが増えています。

 

 こうした動きが、どのような社会を招くのか、正直なところ未知数だと思います。ただ、少なくとも地方創生という大義にはあまり効果が得られないかもしれません。

 

 もう一つ大事な視点ですが、自治体では、“まちづくり”と“産業振興(中小企業支援等)が、「担当課が違う」のを理由に別々になされることが多くあります。出てくる予算も違うことからやむを得ない部分もありますが、まちづくりに産業の発展や振興は欠かせないものですし、逆もしかりです。

 外からの風(人材)を受け入れるならば、まず自組織のこうした“縦割り”を排除して、文脈を合わせていくことがまず求められるのではないでしょうか?

 

次回は、いよいよまとめ編に入ります。