複業が当たり前になる~「複役社会」を考える 中小企業後編

第六回:複業時代に企業はどう変わるのか?中小企業後編

 

 今回は複業が当たり前になる「複役社会」において、中小企業が取り組むべき課題や考え方について考えていきたいと思います。

 実は「副業採用」を上手く行う方法についてご紹介しようと考えていたのですが、突き詰めて考えていくと、企業の経営がどう在るべきなのかという本質的な話になってしまうかもしれません。

 

●当社は何のために存在するのか?

 

 以前、ある中小の運送会社を訪問した時のことです。

その会社は昔の大震災の時に、困っている人に少しでも物資を届けようと、リアカーから始めた志の高い会社と知りました。ところが実際伺ってみると、会社の前にトラックはなく、社員のクルマは隅においやられ、会社の中央に経営者のものであろう新型のメルセデスベンツSクラス一台が会社の前にドーンと斜めに停まっていました。

さて、皆さんはこの会社に副業しようと思われるでしょうか?

 

 副業する方の動機は恐らく様々だと思いますが、副業が単なる金銭のためだけではないケースは多いでしょう。本業がある中であえて行うものですから、「なぜそれをやるのか?」を問うたうえで選択するのではないでしょうか?そして前回にも記しました通り、副業は何も中小企業だけでなく、スタートアップや非営利組織、自分で起業するなど様々な選択肢があります。ですから一般の中小企業が副業に来てもらいたいと思うなら、選ばれる企業になる、と心がけることが大切なのです。

 

 例えば先の運送会社の例で言えば、復興支援というソーシャルな成り立ちの会社ならば社長のベンツこそ隅っこや裏に止めて、創業時のリアカーを前において社会貢献な会社であることをアピールするなど、何を大切にしているのかを伝えることが重要です。

 

では、中小企業が「副業採用」するためにはどんなことに気をつければよいのでしょうか?

例えば自社に以下のような点があるでしょうか?

 

✔自社には長い伝統や歴史があり、守りたいものがある

✔ソーシャルな企業であり、社会に大切な事をしている

✔人をとても大切にするアットホームなあたたかい企業である。

✔自由闊達な会社で、挑戦する者は失敗しても受け入れられる

  etc…

 

自社の理念は何か?自社で働くことの意義や魅力は何か?副業で来てもらう意味は何か? 
などを自社で熟考し、明文化し、社員全員で問いかけていくことです。

 

●中小企業が副業解禁を活用する方法

 

 もちろん、自社は副業解禁しないのに副業人材にだけ来てもらう…ということは現実的ではありません。しかし、少ない社員数で回しているのも事実の中、どのように運営していけばよいでしょうか?

 

1:仕事を常に整理する

 どんな仕事を社員がやり、或いは副業社員がやるのか、を整理します。大事な仕事は社員が、そうでもない作業はアルバイトに…という仕事のさせかたをしてきた会社も多いと思います。今後はもっと多様に仕事を整理し、そこに副業で来る社員のみならず、フリーランスや専門会社、或いはAIロボットなどにどんな仕事をさせるのか、を整理することが経営者には求められていくことになります。

 

2:社員をシェアする

 新しい人材が採用できない以上、今いる社員に活躍してもらうことはもちろん、知人の中小企業の間で社員を”シェアする”、という発想も必要でしょう。中小企業の経営者はコミュニティ活動等で地域の横のつながりもあります。それらを活用して、社員のシェアも行うようにするのです。中小企業は人材育成の研修なども予算的に難しい場合が多いですが、「他社留学(留職)」させることで、実践的な人材育成が可能になります。まずは経営者からお互いの経営やマネジメントを手伝うようにすれば、新しい知見が増えて経営者の越境学習にもつながるでしょう。

 

3:経営革新(新規事業)の手段として、複業起業を考える

 先に述べた通り、事業承継しても現在のビジネスに成長性がない場合、事業の継続が困難になります。そこで考えるべきことの一つに、今の事業を続けながらも新規事業を考えるという点です。もしも自社がこれまでの事業のみを行っているとしたら、未来にとってリスクがあります。働く個人がキャリアのために複業するように、自社も新規ビジネスに複業で行っていくのです。経営者だけが考えるのではなく、社員の複業起業を支援することでも構いません。す。

 

 複業が当たり前になる「複役社会」において、中小企業が取り組むべき課題や考え方を述べてきました。実はここで述べさせていただいた内容は、ことさら目新しいものではなく、大きな設備投資や資金もいりません。

 

志高い理念を持ち、地道にかつ真摯に経営を考えること。そして現在だけでなく未来に向けて経営に取り組んでいく姿勢が、結局は「副業人材の採用」につながるものなのかもしれません。

 

次回は、スタートアップと複業について考えてみたいと思います。